075*『ナガサキ洋楽事始め』制作ノート#04*ビートルズとグレゴリオ聖歌・メリスマ

”音楽はキリスト教にとって有用であるーこの判断がなかったら、
後世の西洋音楽の巨大な発展はなかったであろう”
「名曲が語る音楽史〜グレゴリオ聖歌からボブ・ディランまで〜」/田村和紀夫
(音楽之友社)
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グレゴリオ聖歌が西洋音楽の土台であるといわれる由縁を、
わかりやすく身近な洋楽、ビートルズからひも解いてみよう。
かなり独断ではありますが(笑)

「メリスマ」という歌い方がある。
簡単に言うと、母音を伸ばして音符を追っていく装飾的な歌い方。
wiwkiの説明から概略を抜粋すると、
「メリスマとは古代ギリシャ語で「歌」の意味があり、古典古代の文化において、メリスマ技法は催眠にかかったような陶酔感を聴き手にもたらすものとして利用され、古代の秘儀や礼拝に重宝がられた。メリスマがグレゴリオ聖歌において最初に楽譜に現れるようになったのは、900年ごろに遡り、ミサ曲のある楽章に利用された。」

「君が代」(二代目)を例にとると、
”きーみーがー(あー)よー(おー)はー ちよにー(いい)”
〜略〜
”むー(うー)すー(うー)まー(ああ)でー”
この()の母音を伸ばして歌う唱法というか、曲付けのことだ。
日本で言うと”こぶし”に相当する。
”こぶし”同様、メリスマも歌ってみるとけっこう難しい。
「君が代」くらいだったら、まだいいけど。
ちなみにイギリス人が作曲した”初代”「君が代」は、
『ナガサキ洋楽事始め』に、栗コーダーカルテットなテイストで、
収録されております(笑)
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<http://www.amazon.co.jp/プリーズ・プリーズ・ミー-ザ・ビートルズ/dp/B00267L6S0/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1324993406&sr=1-1>
ビートルズのファースト・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』('63)に、
「ミザリー」という佳曲が収録されている。
この曲はもともとビートルズが前座をつとめたこともある、
ヘレン・シャピロという女性歌手(「子供じゃないの」「悲しき片思い」)に、
レノン&マッカートニーが作ったのだが、
歌詞の内容が彼女のイメージにそぐわないという理由で採用されなかった。
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<http://www.amazon.co.jp/Ultimate-Helen-Shapiro-EMI-Years/dp/B004D5H2LS/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1324993639&sr=1-1>
ビートルズも、まだ駆け出しだったし、「ミザリー」=”惨め”だしね。
今となっては、なんとももったいない話しだが。

いきなりジョンが歌いだす、
♩〜The world is treating me bad, misery〜♩の、
”ba(aaaa)d ”の()の部分がメリスマだ。その後も何度も出てくる。


http://www.youtube.com/watch?v=jltUrO4VPro&feature=player_embedded

同じく『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録のデビュー曲「ラヴ・ミー・ドゥ」
♩〜So please love me do〜♩の、
”プリー(イイイー)ズ”の()の部分。


そしてこれも同じく『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録の名曲「アスク・ミー・ホワイ」
♩〜I love you〜♩や♩〜And it's true〜♩の
”ユー(ウウウウー)”や”トゥルー(ウウウウー)”の()の部分。


セカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』に収録のこれまた名曲、
「オール・アイヴ・ゴット・トゥ・ドゥ」の出だし、
♩〜Whenever I 〜♩や♩〜All I gotta do 〜♩の
”ホェンエヴァー ・アー(アーアアーアアア)イ”や
”オール・アイ・ガッタ・ドゥ(ウーウウーウウウウ)”の()の部分。


まだまだあるよ(笑)同じく『ウィズ・ザ・ビートルズ』に収録の、
僕が大好きな曲「ナット・ア・セカンド・タイム」の、
♩〜I see no use in wondering why , I've cried for you〜♩の、
”ホワ(アーアア)アィヴ・クラ(アアーアアィ)フォー・ユ(ウーウウー)”
の()の部分。


さらには'63年の初のミリオンセラー・シングル「抱きしめたい」、
♩〜I wanna hold your hand〜♩の、
”ハー(アアーアアーアー)ンド”の()の部分。


そして4枚目のアルバム『ビートルズ・フォー・セール』('64年)の1曲目、
「ノー・リプライ」の、
♩〜This happened once before,When I came to your door, no reply〜♩の、
”ノー・リプラ(アアアー)イ”や、
♩〜If I were you I'd realize〜♩の、
”アイド・リ(イイ)アラーイズ”の()の部分。

同じく『ビートルズ・フォー・セール』の「エイト・デイズ・ア・ウィーク」、
♩〜Eight days a week, I love you〜♩の、
”アイ・ラー(アーアーアーアア)ヴ・ユー”の()の部分。


ふー、きりがないのでこのへんでやめよう(笑)
僕が初めてビートルズを聴いた頃、印象的だったのがこのメリスマなのだ。
とくに初期、マージー・ビートと呼ばれていたころの作品に多いのかもしれない。
こうやって並べてみると、ジョンの曲に多いね。
実は”メリスマ”という言葉自体を知ったのはここ最近のことだ。
それまでは「あの母音を伸ばすかんじの・・・」と説明していた(笑)

曲先の仕事で、仮メロ入りデモテープを作詞家の方に渡す場合、
僕の頭の中ではメリスマが鳴っていても、
ほとんどの場合、母音で伸ばすような歌詞はついてこない。
音符ひとつひとつに、言葉がついてくる。
ま、作詞家にすればごく当たり前のことなのだが。
譜面に書いて指定すればいいのかもしれないが、
作詞家の領域を侵すみたいで失礼かもとも思うし・・・

なので、ある時からは楽器による仮メロではなく、
自分の仮歌でデモテープを作るようになった。
”ラーラーラーラー”ではなく”ラー(アーアーアー)”と。
それでも、母音の伸ばしではなく1音1音に
ちゃんと言葉が付いてきたりするわけだけど(笑)
このメリスマに言葉を付けることを、”トロープス”という。
”トロープス”はグレゴリオ聖歌が成立する8世紀頃に、
始まったとされているが、次回はそのあたりについて。
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by playtime-rock | 2011-12-28 01:12
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