人気ブログランキング | 話題のタグを見る

101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01

—このアルバムにまつわる二、三の事柄ー

 このアルバムの1曲目に収録されている「嘘つきルージュ」は、デモの段階である程度は歌詞も出来ていた。そのときの仮のタイトルは「乾いた唇」。この曲がアルバムのリード曲に決まったとき、コンセプト作りの段階から参加されていた漫画家のやまだないとさんから、曲のタイトルを「嘘つきルージュ」にしてはどうかしら?という提案があった。そして、まるで恋をコレクションするかのようにいろんな恋愛を重ね、やっと本当の恋に出会えたのに、やっぱり「さよなら」してしまう女性・・アルバムの最後は「嘘つきルージュ」の別バージョンで、タイトルは「さよならルージュ」・・と、トントン拍子にアルバムのプロットが出来あがっていった。
101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01_d0154761_1494958.jpg

(打合せの後は、なんとレイナちゃんお手製のカレーパーティ。美味しかったー!こんな打合せならいつでも来い!ですね(笑))

その時点で僕は「あっ、これは恋のコレクター・野佐怜奈が主演の『恋のサウンド・トラック』を作るということなんだ」と、まるで恋をコレクションするように、曲のアイデアをセレクションした。そしてレイナちゃんは、各曲でいろんな恋のあらすじをふくらませ、出来上がった台本を僕や作詞家に渡しクランクイン、つまりレコーディングという名の撮影が始まった。
101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01_d0154761_147531.jpg

(写真は9月に先行発売した、やまだないとさんによる「ランブルスコに恋して」の7インチシングルのジャット)

 今回は遠距離恋愛ならぬ、東京—長崎間の遠距離レコーディングであった。、歌入れは東京、ミュージシャンとオケの音源制作は東京と長崎でほぼ半々。ミックスとマスタリングは長崎。それは僕の居住地が長崎だからという物理的な理由だ。でも、一度やってみたかったんだよね。NYのアトランティック・レコードが、メンフィスのスタックス・スタジオで録音やるみたいな遠距離レコーディング(笑)
101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01_d0154761_1342367.jpg

(メンフィスのスタックス博物館。1989年に取り壊されたスタックス・スタジオを再現して同じ場所に建設された。〜wikkiより)

 レイナちゃんとの初顔合わせは、5月の中頃、新宿のイタリアン・レストランだった。食事しながら、打合せしながら、談笑しながら、なんとアコギを持ち込んで曲のキーもそこで決めた。翌日僕は長崎へ戻り、以降、歌のディレクションはすべてネット上で行なわれた。まず僕が簡単なオケをレイナちゃんに送信。そのオケをバックにi phoneで録音した歌のデータを、レイナちゃんが僕に返信。それを聴いたぼくが「ここはもっとこう、そこはそのままのニュアンスで・・」というかんじでまた返信。それこそ一字一句まで細かく、何度も何度もそんなやり取りを繰り返した。
101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01_d0154761_152365.jpg


 これと似た経験を、80年代の中頃にしたことがある。あがた森魚さんの「バンドネオンの豹」というアルバムでアレンジをやらせていただいたときのことだ。ネットはもちろん携帯電話もない頃、最新の伝達機器がファックスであった頃。あがたさんから送られてくる大量のファックスには、できたばかりの歌詞や物語やアレンジのイメージや雰囲気が書きなぐられていた。僕らは「これってどういう意味かなぁ?」とか「どんな世界観なんだろう?」と、その暗号のような長文を解読するところから始め音を作った。そして翌日また別のファックスが届いては音を作るという繰り返し。まどろっこしいと言えばそうなのだが、いやでも想像力は膨らむし、スリリングであったし、遊び心もくすぐられたし、案外楽しくクリエイティブな作業であった。

 今回のレイナちゃんとのやり取りも、離れてはいたけど、あがたさんのときと同様、実に愉しくクリエイティブな作業であった。だんだん以心伝心できるようになったし。そして実際に歌入れで東京のスタジオに入る頃には、歌の方向性や細部もほぼ決まっており、実にスムーズなレコーディングだった。
で、僕はその本チャンの歌のデータを長崎に持ち帰り、ヘッドアレンジを施し、細部と仕上げをアレンジャーへと託すのだ。歌を最初にレコーディングするという、通常とは逆の行程であった。
101*野佐怜奈『don’t kiss , but yes』制作ノート#01_d0154761_245254.jpg


 詳細は次回からの楽曲解説でも書いていくが、今回のアレンジャー、ミュージシャン、エンジニアは、僕が以前、そして今もいっしょに音楽を作っている方々で、いつも僕の望む以上のクリエイティブなパフォーマンスをしてくれる、頼もしい仲間だ。そして今回の主演の野佐怜奈。彼女も僕が望むことを完璧、いやそれ以上に体現してくれた。そもそも僕の望みなんてものは、彼女の声と存在感から導かれたようなものだ。全体の物語を描いたのも彼女だし、そういう意味ではレイナちゃんと僕の共同プロデュース作品ともいえる。もちろん、僕らをを支えてくれたすべてのスタッフのみなさんとの共同作品でもある。〜つづく〜
by playtime-rock | 2012-10-15 21:19
<< 102*野佐怜奈『don’t ... 100*エレキの弾き語り >>