2011年 12月 30日 ( 1 )

076*『ナガサキ洋楽事始め』制作ノート#05*ビートルズとグレゴリオ聖歌*オルガヌムetc

中世では、創造という行為は、全能たる神のみの御業であった。
人間ができることは創作ではなく、補足的説明=注釈のみで、
これは中世の文学における創作の基本が、聖書や古典書の余白に、
本文を説明・拡大する文章を添えることにあったことを想わせる。
この「注釈」はときとして本文をも凌ぐ膨大な量ともなる。
注釈は中世の創作の原点ともいえよう。
「名曲が語る音楽史〜グレゴリオ聖歌からボブ・ディランまで〜」/田村和紀夫
(音楽之友社)より、概略を抜粋。

だが人間の創造への欲求は押さえ難く、8〜9世紀頃には、
前回お伝えしたメリスマ(母音を伸ばして音符を追う)に歌詞をつけたり
(いわゆる替え歌だが、もちろん神を讃える言葉)、新たに旋律を作ったりした。
これをトロープスという。
さらにはこれに4度や5度離れた音を割り当てる多声化(ポリフォニー)も行なわれた。これをオルガヌムという。ただし曲の開始と終止ではユニゾンだった。

さて、前回はビートルズのメリスマをお伝えしたが、
さらにいい例がありました(笑)

『ラバー・ソウル』('65)に収録の「ガール」。
サビのジョン(主メロ)のパート♩〜Ah, girl, girl,girl〜♩の
ガー(アアアー)ル、ガール、ガ(アアー)ル。

官能的なメリスマですな(笑)
まだあるよ。
映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』の、
リンゴが街をさまようシーンで流れる「ジス・ボーイ」
「こいつ」というイカシタというか、まんまの邦題のこの曲、
映画ではジョージ・マーチン・オーケストラによるインストだったが、
(これもいいんだよね。サントラで聴けます。)
歌バージョンのとくにリピートAの部分。
♩〜That boy isn't good for you〜♩の
”ボー(オオオー)イ”と”ユー(ウウウー)”の
ポールのパート。高い方ね。
そして2行目の
♩〜Though he may want you too〜♩の
ジョン(主メロ)の下降するトゥ(ウウーウウウウー)。
これもメリスマってますな。いいかんじ。


しかもジョージもハモる三声コーラス。オルガヌムです。

ちなみに、オルガヌムは元来即興的に歌われるもので、
ジャズへの影響があるのかどうかはわからないが、
主メロのみが記譜され、あとは耳で合わせることが常であった。
11世紀頃には、平行進行だけではなく反進行や斜進行も用いられたが、
まだ主メロとは1音符対1音符であった(自由オルガヌム。対位法の原点)
12〜13世紀頃には、オルガヌムが、二声から、三声、四声へと拡大し、
より複雑化。主メロ以外のパートも記譜されるようになり、
14世紀頃になると主メロとはリズムの違う複雑は対旋律が作られるようになる。

さて、同じ映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』で
歌われた「恋におちたら」という美しい曲がある。
♩〜If I fell in love with you
Would you promise to be true〜♩
というバースの部分はかなり変わったコード進行だが美しい。
そして転調してコーラスへと導入するところも。

で、コーラスのジョンとポールの2声のハモり。
♩〜If I give my heart to you〜♩なんと6度のハモで始まる。
”heart”でジョンがあがりポールが下がって3度に。
次の”to”でジョンは半音、ポールは1音下がってディミニッシュの響き。
次の”you”でジョンが下がりポールが上がり5度。
そしてフレーズの区切り♩〜I must be sure〜♩でユニゾン。
平行だか斜めだか反進行だか、自由オルガヌムだか対位法だか、
よくわかんないけど、こんなにくっつき離れても美しいのはゴイス!

しかも展開するBメロの最初の和声が7thと9thという、
この美しい流れで、なんとブルージーな!
それから3度、4度、3度、6度、とくっつき離れて、
Bメロ最後の♩〜was in vain〜♩は7度だよ。奇跡だな、こりゃ(笑)



ちなみに3度と6度の和音は、
16世紀ルネサンス期のイギリス独自の和音だとか。
「She Loves You 」の最後の6thのコードは、そこに源流があるのかな(笑)
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by playtime-rock | 2011-12-30 02:49